ドローン産業における創造的破壊の未来

ドローン産業における創造的破壊の未来

東京電力とゼンリンが協力して推進する「ドローンハイウェイ」構想に楽天が参画したことで、日本におけるドローン物流の可能性が前進した。一方で、ドローン物流を否定する意見もある。ドローンを取り巻く産業には、どのような未来があるのか。最近の取材から考察した。(田中亘)


「ドローンハイウェイ」構想の背景にある東京電力の新社会インフラサービス

 「ドローンハイウェイ」構想が発表されたのは2017年3月。当時の記者会見では、送電線の上空をドローンが飛び交う未来を危惧する質問が多く、東京電力がなぜドローン産業にコミットメントするのか疑問視する意見もあった。あれから約一年半の期間を経て、「ドローンハイウェイ」構想は少しずつ形を見せ始めている。秩父に構築された最新の実験環境について詳しく触れる前に、東京電力がドローン事業に参画した理由について、インテルエネルギーフォーラム2018の特別講演に登壇した東京電力ホールディングス株式会社の見學信一郎常務執行役のスライドから、背景を探ってみる。
 見學氏は、講演の冒頭で「電力業界の新たな潮流」と題して"5D=D"という方程式を掲げている。もちろん、数学的には間違った式であり、見學氏もそれを承知の上で5つのDと解となるDを紹介している。

電力業界の新たな潮流を示唆するスライド

・Digitalization デジタル化・・・電力業界にもIoTをはじめとしたデジタルの波が押し寄せている。

・Decantralization 分散化・・・発電事業が太陽光や風力のような分散化が加速している。

・De-carbonization 脱炭素化・・・自然エネルギーへの転換が進む。

・Deregulation 自由化・・・電力自由化の流れが広がる。

・De-population 人口減少・・・日本の少子高齢化が加速している。

 これら5つのDは、これまで水力や火力に原子力など、大規模な発電施設で集中的に発電して送電線網で電気を届ける、という電力業界のビジネスモデルを根底から覆す経営課題だ、と見學氏は指摘する。そして、これらの課題を電力業界が解決していくためには、Disruption「ビジネス秩序の創造的破壊」を推進していく必要がある。そのために、東京電力では新領域への挑戦を行っている。それを示したのが、次のスライドになる。

東京電力が取り組む新たな事業領域を示したスライド

 東京電力では従来の電力事業と家庭用太陽光に代表されるクリーンエネルギー、そしてIoTやビッグデータなどの革新的な技術が交わる領域で、ベンチャー企業への出資や蓄電池ソリューションなどに取り組んでいく計画だ。この中で、「新社会インフラサービス」にあたる分野に、東京電力のドローン事業が大きく関わっている。

ドローンハイウェイ構想が誕生した背景について講演する東京電力ホールディングス株式会社の見學信一郎常務執行役

東京電力にドローン事業参画を促した一枚の写真

 東京電力がドローンも含めた広範囲な電力関連の新規事業に取り組む背景には、"5D=D"の方程式よりも前に、歴史が証明してきたDisruption「ビジネス秩序の創造的破壊」の事実がある。特別講演の前半で見學氏は、スタンフォード大学のTony Seba講師から許可を得たという写真を紹介している。それは、1900年と1913年のニューヨークで開催されたイースター・パレードを写した写真。1900年のパレードでは、大通りを数多くの馬車が行き交う中で、わずか一台の自動車が写っている。ところが、13年後のパレードでは、通りを自動車が埋め尽くし、反対に馬車は一台しか写っていない。たった13年の間に、ニューヨークの大通りが自動車で埋め尽くされた背景には、T型フォードに代表される自動車産業のDisruption「ビジネス秩序の創造的破壊」が起きたからだと、見學氏は解説する。参照元となったSeba氏の講演では、自動車の他にもセルラー電話からiPhoneの登場による通信事業のDisruptionに、UberやAirBnBに代表されるビジネスモデルの創造的破壊なども紹介されている。さらにSeba氏は、2020年から2030年の間に太陽光発電は、あらゆる化石燃料の発電コストを凌駕して、電力業界における大きなDisruption「ビジネス秩序の創造的破壊」が訪れるとも予測している。

1900年のイースターパレードの様子(Seba氏の動画から)

1913年のイースターパレードの様子(Seba氏の動画から)

 こうした海外の専門家の意見や予測を研究して、東京電力ではドローン産業への参画も含めた「新社会インフラサービス」を積極的に推進している。そのために、2018年6月27日に東京電力グループの経営資源を活用しながら、様々なイノベーション事業を創出することを目的に「東京電力ベンチャーズ株式会社」(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:赤塚新司、以下「東電ベンチャーズ」)が設立された。そして、先日の物流実験に関する記者発表会にも、東電ベンチャーズの赤塚新司代表取締役社長が出席した。

Utility3.0の世界を具現化する「次世代ユーティリティ」への変貌

 東電ベンチャーズの設立に関するプレスリリースにも、"5D=D"による環境変化と「新成長タスクフォース」への取り組みが書かれている。同社は、Utility3.0の世界を具現化する「次世代ユーティリティ」への変貌を目指す事業により「新しい社会インフラ」の創出を図る。こうした背景から、送電線鉄塔を活用した「ドローンハイウェイ」構想は、まさに東京電力の古い経営資産を活かしながら、新しい時代を目指す社会インフラの構築になる。極端な未来を予測すれば、電力の地産地消が促進されて、長距離の送電線鉄塔が使われなくなったとしても、ドローンハイウェイ」構想によって整備された空路は、東京電力の提供する新しい社会インフラとして、存続していける可能性もある。
 もちろん、現在は実証実験の段階であり、すべての送電線鉄塔に気象観測の機器を取り付けて維持するコストなどを考えると、採算性のあるビジネスモデルを構築できるのかは不透明だ。しかし、すでに海外ではニューヨーク州が推進する50マイルのドローン専用空路や、規制の緩い中国のように、大型のドローンを目視外で長距離飛行させる環境がある。それに対して、日本では恵まれた空域がない。楽天AirMap株式会社の代表取締役CEO 向井 秀明氏も、先の記者発表会の会場で「ドローンハイウェイ」構想によって整備された秩父での3KMのコースは、楽天のドローン事業にとって、実証実験を重ねていける貴重な空域だと評価する。
 今後、東電ベンチャーズとゼンリンでは、秩父のコースの他にも、関東を中心に「ドローンハイウェイ」のテスト空域を整備し、多くのドローン事業者やベンチャー企業の参画を促していく。参加する企業は、国内外を問わずドローンの機種や技術に関しても、特定のテクノロジーに依存することなく、オープンな相互運用を目指していく考えだ。
 東京電力が保有する送電鉄塔は約5万基あり、その総延長は約1万5千KMに及ぶ。加えて、配電柱は約590万基あり、その長さは約33万8千KM。これだけの社会インフラが、ドローンの空域として利活用できるような未来が訪れれば、日本は世界に先駆けるドローン先進国になる可能性もある。もちろん、解決しなければならない規制や技術的な課題は多い。しかし、冒頭で触れた1900年から1913年の間に起きた自動車産業におけるDisruption「ビジネス秩序の創造的破壊」に学ぶならば、必ず転換点は訪れる。そのタイミングを商機にできるかどうかが、日本のドローン産業に問われている。

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