【慶大×田村市】ビール主原料、ホップの畑をInspire2などがフライト! 「たむらモデル」の次の一手

【慶大×田村市】ビール主原料、ホップの畑をInspire2などがフライト! 「たむらモデル」の次の一手

 福島県田村市のホップ畑に、ドローンが飛んでいる。飛ばしているのは田村市と包括連携協定を結んでいる慶應義塾大学の南政樹さんのチームだ。ビールの主原料であるホップの高い品質の確保、農家の労力軽減、生産コスト削減にドローンを役立てるため、実践投入を見据えて飛行を繰り返している。「たむらモデル」の次の一手は、農業だ。


背丈は8メートル。でも、つるは切りたくないし、状況も確認したい

 ドローンがホップ畑で飛ぶ様子は福島県田村市でときおり見られる。7月21日も、同市大越の丘陵地に広がるホップ畑でドローンが飛んだ。クラフトビール事業を手掛ける株式会社ホップジャパン(本社、田村市、本間誠社長)の契約農家だ。

 ホップはつるを伸ばす植物だ。畑には高さ8メートルの支柱が一定の間隔で立ててあり、てっぺんを同士をケーブルがわたしてある。そのケーブルからは等間隔でワイヤーがおりていて、ホップはそのワイヤーにからみつきながら背を伸ばす。今年はゴールデンウイークに定植され、順調に伸びた。背丈は6月末から7月にかけて8メートルに届いた。

 つると葉の中に、緑色のまつぼっくりのような形をした「毬花(きゅうか)」ができる。めしべやおしべが集まったもので、成熟すると苞の根元にルブリンという黄色い粉末ができる。このルブリンがビール独特の苦みや華やかな香り、泡もちのよさを演出する。毬花はそろそろ収穫どきを迎える。

 栽培農家にとっては毬花の収穫が大きな仕事ひとつだ。しかし、作業はそう簡単ではない。まず、生育状況は、収穫時期を見極めるのが一苦労だ。背丈が8メートルあるため、全体の状況を正確に確認するのは手間がかかる。すべての毬花が一斉に収穫適期を迎えるわけでもないらしく、ほどよく育ったものだけを選んで収穫しようとすれば、作業の難易度はさらに高まる。

「 地表に近いところからできる、とか、太陽の当たる高いところからできる、とか、一概には言い切れません。収穫に適したものだけを選びたい栽培農家は、結局つるひとつひとつを肉眼で確認して、これはいい、これはまだ、などと判定しなくてはいけません。なかなかの難題なのです」というのは、ホップジャパンの荒井雅美さんだ。荒井さんは「適期を迎えた毬花は一週間もすぎると、収穫に適さなくなってしまう」という。うかうかしていると、見極めている間に収穫適期を逃す恐れもある。

 やっかいなホップ栽培はどうしているのか。足場を組んで高所作業をしたり、収穫期を迎えたホップのつるを根元から切り落とし、それを冷凍して出荷したりするという。

 しかし、田村市では、高い品質のものを届けたい、という思い入れがことのほか強い。生育状況をきちんと把握して、成長して収穫適期を迎えたものだけを、手摘みする。それをフレッシュな状態で届けたり、ビールにしたりすることこそ、消費者が最も求めていると信じている。

 国内のビール市場は現在約1・8兆円。そのうちクラフトビールは、2015年に前年度比15%増の約180億円と伸び盛りだ。市場シェアは1%にすぎず、ホップジャパンはさらに成長余地があるとみている。実施、米国ではビール全体で12兆円のうちの2兆4千億円、約20%がクラフトビールだ。国内でも拡大余地があると見込む指摘は多い。

 しかし国内では生産農家の高齢化が、国産ホップの供給を妨げている。このままでは市場が拡大しても輸入原料だけがのびる。

 「せっかくなら一番おいしいものを味わいたいじゃないですか。地元のホップで作ったビールのほうがおいしいと思うんですよ。しかも、生育状況まできちんと見て、適切な時期に、手摘みで収穫したホップを使う。生のホップをいれたビールって、本当にうまいんですよ。それができると思うから、ホップの生産を始めたんです」というのは、田村市で一昨年にホップ栽培をはじめた、鈴木喜治さんだ。鈴木さんの携帯端末には、ホップの浮かぶビールの画像が収められている。

 国内のホップ生産は北海道、秋田県、岩手県などが知られる。田村は後発だ。だからより、おいしいものにするには、ほかが手掛けないほど、手間がかかる方法であったとしても、それをやりたい。中には収穫期を迎えたホップのつるを根元から切り、冷凍して出荷することもある。それはしたくない。

株式会社ホップジャパン:https://www.facebook.com/hopjpn/
ドローン社会共創コンソーシアム:http://drone.sfc.keio.ac.jp/

ホップの様子を側面から撮影するためにPhantomをフライト

ホップの毬花。この中のルブリンという成分がビールをはなやかにし、粟餅をよくする

ホップ畑でドローンをフライトさせる慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表・支柱と支柱の間にワイヤーがはられ、そこからおりてくるロープをつるがつたって伸びている

ウインチとドローンとRedEdge

 そんな思いを実現するために凝らした工夫は、支柱に備わる特注のウインチが物語る。

 ウインチで、伸びたつるをひきおろし、地上で手摘み作業をすることができる。その日の作業が終われば、もう一度、つるを引き上げればいい。高齢になるにつれて危険になる高所作業を回避しながら、つるを切る必要もない。

 さらに生育状況も適切に確認したい。そんな中で、ドローンが一役買うことになった。

 ドローンの活用を引き受けたのは、慶大SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表と、コンソーシアムのメンバーである専門家ら。

 今年初めから現地の視察や生産農家との話し合いを経て、リモートセンシングに適した米MicaSense社(国内では株式会社ジェピコなどが販売)製のマルチスペックトラルセンサー、RedEdge-M」をドローンに搭載し有効性を確認することにした。

 Red Edge-Mは上空120メートルからの撮影で、高解像度の画像データを取得できる。Blue画像、RGB画像などを撮影後に合成できる。植生状態が健康かどうかを確認するのに有効だ。たとえば光合成をしている健康な植物は、主な光合成器官である葉緑素が、赤、青紫、青緑の電磁波を吸収するが、緑色は吸収されずに反射される。こうした植物の特徴を利用して、健康化どうかを判断できる。

 ホップ畑では主にDJIのInspire2を使い、畑の上空を自動航行で飛ばして撮影した。また、Phantom4を使って、ケーブルにからみつくホップを側面から、足元からつるの先までを昇降を繰り返して撮影した。

 撮影データは、ドローン社会共創コンソーシアムの会員でもあるデータ収集、分析を手掛けるデータセクション株式会社(本社:東京)が担う。近く行われる収穫の状況などを照らし合わせて、ドローン活用の有用性が確認できれば、本格的に投入する。

 なおホップジャパンは今年、カスケード。センテニアル、ナゲット、かいこがね、スターリンの核品種を収穫する予定だ。

データセクション株式会社:https://www.datasection.co.jp/
MicaSense社:https://www.micasense.com/
株式会社ジェピコ:http://www.jepico.co.jp/

ホップ栽培農家の労力軽減のために導入された支柱のウインチ。撮影は6月で、このころはまだつるがのびていない

「ナゲット」はまもなく収穫されるホップの品種のひとつ。ハンバーガーショップの、アレではない

RedEdge-Mを搭載したInspire2

たむらモデルの次の一手

 田村市は2016年12月に、慶大とドローンを活用した地域活性化に取り組む包括連携協定を締結した。協定の締結直後から、市内にある福島県立船引高校で、ドローン特別講座を始めた。ドローンで地域活性化をするには、ドローンの活用先、活用方法を確立しなければならないが、その前に、地元の市民がドローンを使えることが前提となると考えたためだ。

 船引高校での特別講座はこの6月から第三期を迎えている。これまで知識、技術を身に着けた生徒が、市内で開催された野外音楽フェスで公式撮影をしたり、防災訓練で空撮したりと活躍の幅を広げてきている。その様子をみた市民が、ドローン高校生に目を細める場面にも増え、市民への浸透も進んでいる。

 実際、ホップ畑でドローンを飛ばしているときには、近所の別の畑の生産者やその知人が、ドローンの作業をしている作業チームに話しかけ、説明を聞き耳をたてた。その作業の様子も興味不深そうに、楽しげに見物していった。

 また今年3月には、地域全体でドローンによる取り組みを盛り上げるため、地域コンソーシアム「ドローンコンソーシアムたむら」が設立総会を開いた。田村市や周辺に縁のある森林組合、セキュリティ会社、金融機関、測量会社ほか30を越える法人、個人が参加し、ドローンによる地域活性化への期待を表明した。ドローン専門業者による、ドローンのための集団ではなく、あくまでも地域のための、田村市以外の個人、法人も参加できるオープンな組織であることが特徴だ。これまでに、体験会を主催し、ドローンの普及につとめるなどの活動を展開している。

 ホップ畑でのドローン投入は、田村市の構想しているドローンによる地域活性化の中で、具体的な産業利用に向けた道筋の構築だ。ホップ栽培へのドローン活用にめどがつけば、その後は他の作物への展開、他産業への展開、他地域への展開も構想しやすくなる。導入した生産農家や事業主は、経験者としてその知見を地元に還元できる。

 南副代表は一連の田村市での取り組みを、「たむらモデル」と名付け、ドローンの活用を待ちわびる地域への展開を視野に、モデルとして完成させる取り組みを続けている。課題をかかえる地域は全国各地にあるが、地域ごとの課題には共通点も多くあり、役立つモデルがあれば、役立てることもあるはずだ、という考えが根底にある。

 人を育て、コミュニティを育て、ホップなどの作物も育てて、地域活性化の成果を目に見える形で示すことを目指しているたむらモデル。ホップ生産農家や、ホップ加工業者、消費者が笑顔をみせたとき、おそらく田村には、誇りが育つ。

ドローンコンソーシアムたむら:https://tamura-drone.com/
田村市HPに掲載されたドローンでの取り組み:http://www.city.tamura.lg.jp/soshiki/66/drone-3.html

フライトの準備をする南政樹副代表の一行。難しい顔をしているが、ドローンの有効性を確認できるかどうか大きな期待を寄せて内心、ワクワクしている

ホップ畑を視察するホップジャパンの荒井雅美さん(左)と、慶大ドローン社会共創コンソーシアムのメンバーで、広島県神石高原町でドローン活用に取り組んでいる慶大院生の貫洞聖彦さん(右)

ホップ畑の上空をフライト

撮影の様子を興味津々の様子で見守る、ホップ畑の近所ブルーベリーを栽培する農家とその知人。田村市ではドローンに親しみを覚える市民が増えている

ホップを育て始めて2年目の鈴木喜治さん。ビールに浮かべて味わうのが楽しみだ、と語るときの表情をみていると、こちらも楽しみになる

この記事のライター

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